2018年当時、フランスの子育て支援で語られていたのは、集団保育(保育園)と個別保育(母親アシスタント、ベビーシッター)の二本立てで待機児童問題をカバーする仕組みでした。母親アシスタントは、自治体主催の研修を受けた個人が自宅で子どもを預かる制度で、費用の一部が自治体から補助される点が特徴です。この基本構造自体は今も変わっていません。

 

虐待や不適切保育など保育の質が社会問題に

一方でこの数年、保育の「質」が大きな社会問題として浮上しました。営利目的の民間ミニクレッシュ(小規模保育施設)の急増にともない、調査報道によって虐待事例や不適切な保育実態が明るみに出たことがきっかけです。これを受けてフランス政府は、保育制度の根幹に関わる2つの大きな改革を進めています。

 

一つ目は、2025年1月に発足した「保育の公共サービス(Service public de la petite enfance)」です。2023年12月の完全雇用法にもとづくもので、居住地に関わらず3歳未満のすべての子どもが質の高い保育を受けられることを目指し、人口3500人以上の市町村を保育の「組織化の責任主体」と位置づけました。市町村は地域の保育ニーズを調査し、保育施設の新設・拡張計画に意見を述べる義務を負うようになっています。

 

二つ目は、2025年4月に施行された保育施設の質・人員基準に関する新しい政令です。ミニクレッシュの運営者に対して質の評価計画の策定を義務付け、1人の運営者が管理できる施設数を制限し、保育チームに国家資格保有者(保育士、看護師、心理運動士など)を最低1人置くことを義務化しました。2026年9月以降は、この資格保有者の配置義務がすべてのミニクレッシュに拡大される予定です。

 

ただし課題も残っています。フランス全国家族手当金庫の調査では、保育の現場で必要な人員の8.2%にあたる約1万3500ポストが欠員となっており、これが保育園の閉園や利用制限につながっています。政府は2027年までに新たに3万5000人分の保育定員を創出する目標を掲げ、保育施設への公的補助(PSU)の引き上げなども打ち出していますが、保育士不足の解消は道半ばの状態です。

3歳からの「保育学校」、今は「義務教育」に

2018年の取材時、フランスでは満3歳になると全員が公立の保育学校(école maternelle)に無料で入れました。給食は別料金で、昼休みには担任とは別の「アニマトー/アニマトリス」が子どもの世話をする仕組みも当時のままです。

 

大きく変わったのは、この「3歳からの就学」の法的な位置づけです。2019年7月に成立した「信頼の学校のための法律」により、義務教育の開始年齢が6歳から3歳に引き下げられました。それまで実際には97%以上の3歳児がすでに保育学校に通っていたため実務上の影響は限定的でしたが、「行けたら行く」から「行かせなければならない」へと法律上の位置づけが変わった点は象徴的です。ホームスクーリングを選ぶ家庭には、市町村への届け出と定期的な確認が義務付けられています。

 

制度拡充の背景にある「少子化」への危機感

 

2018年当時、フランスは「少子化を克服した国」として紹介されていましたが、その後出生率は下降を続けています。2023年の出生数は67万8000人で前年から6.6%減少し、年間出生数が70万人を割り込む、第二次世界大戦後最低の水準となりました。これを受けてマクロン大統領は2024年1月、少子化対策として「人口的な再武装」を掲げ、休暇制度の拡充や保育の質向上策は、いずれもこの文脈のなかで進められています。子育てのしやすさを高めることが、少子化に歯止めをかける処方箋になるという考え方は、日本にとっても示唆の多いところでしょう。