保育制度は「量の確保」から「質の担保」へーフランスの子育て

フランスでは近年、営利目的の小規模保育園の増加による「保育の質」の低下が社会問題化し、2025年以降、国を挙げた保育・教育制度の抜本的な改革が進められています [1, 2]。この記事では、3歳からの義務教育化や保育の質を担保するフランスの最新制度と、その背景にある少子化対策について詳しく解説します。
待機児童ゼロの裏で、ニュースに流れる不適切保育や虐待の文字に胸を痛める日々。預け先が見つかれば本当に安心なのでしょうか。我が子を育む場所だからこそ、私たちは今、「保育の質」という極めて重要な課題に直面しています。
この記事でわかること
- フランス子育てにおける「保育の公共サービス」制度と市町村の新たな責任
- ミニクレッシュに義務付けられた「国家資格保有者の配置」などの質の基準
- 2019年から3歳児へ引き下げられた「就学の義務教育化」の実態と変更点
- フランス政府が少子化対策として掲げる「人口的な再武装」とその背景
2018年当時、フランスの子育て支援で語られていたのは、集団保育(保育園)と個別保育(母親アシスタント、ベビーシッター)の二本立てで待機児童問題をカバーする仕組みでした。母親アシスタントは、自治体主催の研修を受けた個人が自宅で子どもを預かる制度で、費用の一部が自治体から補助される点が特徴です。この基本構造自体は今も変わっていません。
虐待や不適切保育など保育の質が社会問題に
一方でこの数年、保育の「質」が大きな社会問題として浮上しました。営利目的の民間ミニクレッシュ(小規模保育施設)の急増にともない、調査報道によって虐待事例や不適切な保育実態が明るみに出たことがきっかけです。これを受けてフランス政府は、保育制度の根幹に関わる2つの大きな改革を進めています。
一つ目は、2025年1月に発足した「保育の公共サービス(Service public de la petite enfance)」です。2023年12月の完全雇用法にもとづくもので、居住地に関わらず3歳未満のすべての子どもが質の高い保育を受けられることを目指し、人口3500人以上の市町村を保育の「組織化の責任主体」と位置づけました。市町村は地域の保育ニーズを調査し、保育施設の新設・拡張計画に意見を述べる義務を負うようになっています。
二つ目は、2025年4月に施行された保育施設の質・人員基準に関する新しい政令です。ミニクレッシュの運営者に対して質の評価計画の策定を義務付け、1人の運営者が管理できる施設数を制限し、保育チームに国家資格保有者(保育士、看護師、心理運動士など)を最低1人置くことを義務化しました。2026年9月以降は、この資格保有者の配置義務がすべてのミニクレッシュに拡大される予定です。
ただし課題も残っています。フランス全国家族手当金庫の調査では、保育の現場で必要な人員の8.2%にあたる約1万3500ポストが欠員となっており、これが保育園の閉園や利用制限につながっています。政府は2027年までに新たに3万5000人分の保育定員を創出する目標を掲げ、保育施設への公的補助(PSU)の引き上げなども打ち出していますが、保育士不足の解消は道半ばの状態です。

3歳からの「保育学校」、今は「義務教育」に
2018年の取材時、フランスでは満3歳になると全員が公立の保育学校(école maternelle)に無料で入れました。給食は別料金で、昼休みには担任とは別の「アニマトー/アニマトリス」が子どもの世話をする仕組みも当時のままです。
大きく変わったのは、この「3歳からの就学」の法的な位置づけです。2019年7月に成立した「信頼の学校のための法律」により、義務教育の開始年齢が6歳から3歳に引き下げられました。それまで実際には97%以上の3歳児がすでに保育学校に通っていたため実務上の影響は限定的でしたが、「行けたら行く」から「行かせなければならない」へと法律上の位置づけが変わった点は象徴的です。ホームスクーリングを選ぶ家庭には、市町村への届け出と定期的な確認が義務付けられています。
制度拡充の背景にある「少子化」への危機感
2018年当時、フランスは「少子化を克服した国」として紹介されていましたが、その後出生率は下降を続けています。2023年の出生数は67万8000人で前年から6.6%減少し、年間出生数が70万人を割り込む、第二次世界大戦後最低の水準となりました。これを受けてマクロン大統領は2024年1月、少子化対策として「人口的な再武装」を掲げ、休暇制度の拡充や保育の質向上策は、いずれもこの文脈のなかで進められています。子育てのしやすさを高めることが、少子化に歯止めをかける処方箋になるという考え方は、日本にとっても示唆の多いところでしょう。
よくある質問(FAQ)
Qフランスの「個別保育」と「集団保育」の違いは何ですか?
Aフランスでは、集団保育である保育園(クレッシュ)のほか、自治体の研修を受けた個人が自宅で子どもを預かる「母親アシスタント」やベビーシッターといった「個別保育」の二本立てで待機児童をカバーしています。個別保育でも費用の一部が自治体から補助されるため、家庭のニーズや状況に合わせた柔軟な預け方が可能です。
Qミニクレッシュとは何ですか?どのような質改革が行われましたか?
A民間が運営する営利目的の小規模保育施設のことです。急増に伴う虐待等の社会問題を受け、2025年4月の新政令により、1人の運営者が管理できる施設数の制限、質の評価計画の策定義務、そして保育チームに国家資格保有者(保育士・看護師等)を最低1人置く配置義務が導入され、2026年9月には全施設へ拡大されます。
Q3歳からの保育学校が義務教育になったことで何が変わりましたか?
A2019年の法改正により就学義務が3歳に引き下げられ、それまでの「行けたら行く」から「行かせなければならない」法的義務に変わりました。保育学校自体は従来どおり公立で無料ですが、不登校や家庭学習(ホームスクーリング)を選択する場合には、市町村への届け出と、学習状況の定期的な確認が義務付けられるようになりました。
まとめ
かつて少子化克服国とされたフランスですが、出生率の低下と不適切保育の問題に直面し、現在は「保育の質」の確保へと大きく舵を切っています。2025年の保育公共サービス発足や3歳からの義務教育化など、国が主体となって教育・保育の安心を法的に担保する姿勢は、日本にとっても極めて重要です。親が安心して我が子を預けられる社会こそが、少子化を食い止める大きな処方箋となるでしょう。