2001/5/10更新
今日のエッセイ
5月の桜

「花びらが散った後の、桜がとても冷たくされるように…………」
昔、風が歌っていた。
4月の初旬、桜は一斉にその存在を主張するかのごとくに、花を咲かせる。
その時始めて、自分たちの身の回りの桜の木の多さに気づく。
学校の校庭、公園、街路樹はもちろん、住宅地の普通の家庭の庭にも、
桜の木は沢山存在している。
花びらで、ピンクの綿菓子のようになった桜は、僕たちの目を楽しませてくれる。
そのピンクの綿菓子の下は、頬を桜色、いや、赤ら顔の酒飲みで賑わう。

8分咲き〜満開に花見に行くのは、ビギナーだと、タクシーの運転手さんに言われた。
「どうせ酒を飲みに行くんだから、誰も上を向いてはいないでしょう。
花びらが散り始めてから、花見には行くもんですよ。
そうすると、杯に花びらがはらはらと舞い落ちてくる。
風が吹くと花吹雪が舞う。 風流に酒が飲めるでしょう?」
確かに言われるとおりだ。

その風流に酒が飲める僅かな期間も過ぎ、いつの間にか葉桜となる。
葉が生い茂った桜は、誰も気に留めず、他の街路樹の中に再び紛れてしまう。
桜の名所は今、こんもりと緑に覆われ、まるでトトロでも住んでいそう。
季節はずれと言う無かれ、この緑の葉で一杯の桜も、僕は好きだ。

花の時期の桜も美しいが、華やかさと隣り合わせに、儚さを持っている。
対して、5月の緑の時期は、みずみずしい活力を感じる。
桜が桜であることを主張するのではなく、森の一部となり自然の一部となる。
新社会人もやっと社会とスーツに馴染む頃。
4月に発足した新政権も早く馴染んで、成果を出して欲しいものだ。

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