2000/07/01更新
今日のエッセイ
寄り添い

水の流れる音が、暗闇の中から聞こえる。
闇に目が慣れないまま、足下を確認しながら、その音のする方へと歩いていく。
せせらぎまでたどり着くと、そこにはまるで息をするように光る、螢がそこここに。

宙を舞う螢は、光っているときだけ、その存在が解る。
ゆっくりと、ほのかに光りながら宙を舞う。
静かな点滅は、闇の中に、糸を引くように光の筋を残し、
消えたかと思うと、しばらく先にまたほのかな光を現す。
光は、目の前の草の葉の裏に留まり、明滅を繰り返す。
緑の葉越しに、ほのかな光が、葉全体を光らせるように明滅する。
しばらくそれを眺めていたら、何故か涙が出そうになった。
ふと周りをみると、カップルがたくさん。

螢一匹が成虫になるのに、500匹もの川蜷が食べられているという。
螢の、この世のものとも思えない、寂しげで、美しい光は、
500匹の川蜷の、魂の光なのだろうか。

せせらぎから車に戻る、暗い道を一人歩いていると、
右肩の上の方を、一匹の螢が、僕に寄り添うように飛んでいた。
夜道を照らす程の、明るさはなく、本当に、寄り添うように飛んでいた。
一人の僕を、慰めようとしてくれていたのだろうか。

過去のエッセイ
新しいエッセイ

 

伊達明のエッセーTOPへ