2000/06/29更新
今日のエッセイ
アール・グレイ

そう、紅茶。
紅茶を好む女性は多い。 私の身近にも居る。
しかし、ここでは紅茶の話をするわけではない。車である。
アール・グレイと車の関連なんてあるの?と思う向きもあるだろう。

私の友人に、作詞家でもありライターのjと言う人物が居る。
人気歌手の詩も書く傍ら、広告ではACC賞を採ったり、
数年ほど前には、京都のラジオ局でレギュラー番組を持つほどの甘い声の持ち主。
その彼が、数年前イギリスを取材旅行で訪れた際に、ある人物から、素性の良い
それは手入れの行き届いた車を紹介された。
バンデンプラス・プリンセス。通称バンプラ。

彼の地では、メルセデスベンツとバンプラが同時にホテルの車寄せに付いたら、
バンプラのドアを先に開ける、と言われる。
車のサイズは、光岡自動車のビュートや、トヨタのデュエット位の、小型。
しかし、その作りは、イギリスの高級車、ロールスロイスやジャグァー並の内装。
貴族のお嬢様が、ロールスやベントレー、ジャグァーのような仰々しい車を嫌って 、
好んで乗ったとも言われる。 もちろん、ショーファードリブン。

彼が見たバンプラは、アール・グレイ侯爵が所有していた車だった。
一目見て気に入った彼は、購入を即決。
車の到着を心待ちにしながら、受け入れ態勢を整えた。
大事にしていた愛車、真っ赤なカルマンギアカブリオレを泣く泣く手放し、待った 。

彼に仕事の話ついでに、久しぶりに会った。
車は当然到着しているものと思い、訪ねた。
しかし、彼はバンプラではなく、AUDIに乗っていた。
「日和っちゃいましたよ」と照れながら一言。
為替の変動が、意外なところで影響していた。
彼が購入を申し入れたときは、円が上昇していた頃。
円建てで価格を決め、話は進んでいた。
ところが、円が下降局面に入ると、円建ての価格では損をする、
とばかりに価格のつり上げに来たというのだ。
彼は激怒し、涙をのんでアールグレイ侯爵の車の購入をあきらめた。

雨のスパイラルカフェでの打ち合わせ。
彼はアール・グレイを注文した。
単にアールグレイが好きだったのか、手にすることなく離れていった、
焦がれた車への未練なのか,それをあえて聞くこともなかった。
紅茶のアールグレイとこの侯爵が、関連があるかは,私は今も知らない。

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